6-2 遊行寺坂の松並木
2014-05-04


【き】「こいつもずっとここに鎮座しているんだろうな。」
【お】「まあ、あながち間違っちゃいないけど、鎮座という言葉はちょっと・・・。」
【き】「鎮座だろう。」
【お】「このクスノキ、横浜市の名木古木に指定されているみたいだよ。」
【き】「やっぱりな。そうだと思ったよ。だってさ、こんなに立派な木なんだから。」
【お】「はははは・・・。」
【き】「今日は曇っているけど、晴れた日なんかは、この規模の神社の境内は気持ちがいいだろうな。」
【お】「そうだね。」
【き】「ちょっと休んで行こう。」
【お】「まあいいけど、天候が心配だね。」
そう言って空を見上げるおさべえ。空は曇りで心なしか厚みを増してきているような感じがする。天気予報では雨が予想されているだけに、少しでも先に進みたい心境のおさべえである。
【き】「さて、少し休めたし、先へ進もうか。」
【お】「そうだな。藤沢市まではもうすぐだし。」
【き】「なに、藤沢宿まではもう少し。そこまで来たのか。」
【お】「あ、いや、藤沢宿ではなくて藤沢市。この先で東海道は左に向かい県道30号線になるんだけど、そこいらで藤沢市に入るみたいだよ。」
【き】「なんだ。藤沢宿ではなくて藤沢市か。」
諏訪神社を後にした旅人は、今にも雨が降り出しそうな空の下を、藤沢宿目指して進んだ。東海道は左に分岐した後、国道1号線としばらく並走していたが、東俣野の交差点に着くと、国道1号線から左に分岐する県道30号線に合流する。この東俣野の交差点は、鎌倉時代の軍用道、鎌倉街道上道と交差している場所でもある。鎌倉街道の道筋はとぎれとぎれとなっているが、東俣野交差点周辺にま、今も古道が残っている箇所がある。
【お】「東俣野の交差点だね。ここで東海道は左、つまり県道30号線となって遊行寺へ向かうよ。」
【き】「遊行寺、聞いたことがあるな。」
【お】「箱根駅伝じゃないのか。」
【き】「おおそうだ。箱根駅伝だ。」
【お】「遊行寺の横、なだらかに下る坂が遊行寺坂といって、箱根駅伝では定点撮影のポイントとなっている場所だね。箱根駅伝ではよく映っているよ。」
【き】「そうか。我々も箱根駅伝の選手のように、東海道を箱根に向けて歩いているんだな。」
【お】「いきなり箱根かい。まずは藤沢宿にしておこう。」
【き】「へいへい。」
【お】「この先には松並木があるぞ。」
【き】「松並木か。そりゃ楽しみだ。」
【お】「ちなみに・・・。」
【き】「ちなみに?」
【お】「ここ、東俣野の交差点では、東海道とは別の古道が横切っているんだよ。なんだかわかるか。」
【き】「別の古道?」
【お】「鎌倉街道上道。あの新田義貞が鎌倉攻めの際に使用したという道。」
【き】「いざ鎌倉へ!あの新田義貞か。」
【お】「そうそう。鎌倉街道には上道、中道、下道の3つの本道と幾筋もの市道からなっていると考えられているんだ。その内上道は、分倍河原を通り高崎まで伸びていて、この東俣野で東海道と交わっていたとされているよ。その証拠に、近くに庚申塔などの石仏があるらしいよ。」
【き】「へぇー、ということは、ここから鎌倉に行かれるというわけか。」
【お】「そうだね。確かに現在の道路も鎌倉・江の島方面に続いているからね。」
【き】「鎌倉時代の古道と江戸時代の東海道。道の歴史は刻まれているな。」
【お】「鎌倉街道もいつか辿ってみたいものだな。」
【き】「そのうちな。」
鎌倉街道に思いをはせながら、二人は江戸の東海道を遊行寺目指して進んだ。ちなみに、藤沢宿は鎌倉時代の東海道(京鎌倉往還と呼ばれていた)と江戸時代の東海道の接点でもある。

 県道30号線を進むと藤沢市に入り、やがて旧東海道松並木跡の碑が見えてくる。街道沿いには松並木が存在していて、気持ちよく歩ける。道はゆるい下り坂となるが、これが箱根駅伝でも有名な遊行寺坂である。

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[【読み物】なりきり弥次喜多道中]

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